2018年12月15日

第一章-02

「さあさあ、あなたの名前はなんて言うの? とかそういう堅苦しい話は後にしましょうか! あなたは何か……そうね、のほほんとしているから、ポンタにしましょうか! よろしくね、ポンタ!」

「突然ニックネームをつけられるほどの間柄では無いと思うのだが?」

「何よ、硬いわねー。それだからポンタなんて柔らかいニックネームをつけてあげたんでしょうに。今度からそう呼ぶからね。よろしくね、ポンタ! ええと、あなたは元々どんな部活に入っていたか教えて貰える?」

 説明できることはあらかた説明したような気がする。小学校では卓球クラブに入っていて、中学校には囲碁部に入っていた。卓球と囲碁といういかにも交わらないものに入っていた訳だけれど、それについてはあまり深く触れないで貰えると有難い。

「ふうん……囲碁は面白いわよね。白と黒の碁石で繰り広げられる知略戦は見ていて面白いものよ。で? 段とか級とか持ってる訳?」

「……残念ながら、そこまでの実力では無い」

「何だ、残念。級でも持っているなら対戦でもして貰おうかと思ったのに」

 対戦してどうなるというのだ。そもそもここはSF同好会とやらじゃないのか。

「それはそれとして。あなたがこの部活動にどのような利益を齎すか、教えて欲しいわね」

「利益? それは入ってみないと分からないだろ。どこまで利益を追求するかによるけれど、さ」

「……成る程」

 さらさらとノートに何かを記述していく塩山昭穂。

 何を書いているのだろうか。

「では、これで質問を終わります。……おめでとう、ポンタ。これからあなたはSF同好会の副会長よ」

「全力で断らせていただきます」

「なんで? 断ることは認められないわよ?」

「いやいや、普通に考えておかしな話でしょう! どういう話題から『合格』に持って行ったのかさっぱり分かりゃしない!」

「勘、よっ!」

「は?」

 たたたっ、と彼女は部室内を走り回り。

「私の勘は当たるのよ〜!」

「…………はあ?」

 拝啓、母上殿。

 俺はどうやら訳の分からない部活動に入ってしまったようです。


 ◇◇◇


 話を戻して。

「で、結局部員は何名集まったんですか?」

 正確には同好会だから会員、と言うべきなのだろうが。

「二人だけよ」

「は?」

「あなたと、わたし。合計二名。まあ、これで同好会の体裁は保てるから問題無いと言えば問題無いのだけれど。……あ、でも会計が必要か」

「いやいやいや、あんだけ人を惹かせるようなことをしておいて、駄目だったと?」

「そういうもんじゃない? 私は結局誰も来ないと思っていたし。そしたら非公式だけれど、部活動は遂行する。SFなコンテンツを捕まえるためにはね!」

「そのSFなコンテンツって具体的にはどのような……」

「宇宙人、未来人、異世界人」

「……はあ」

「あとアンドロイドも居れば完璧よね」

「やっぱり俺が入っている理由が納得いかない」

「だから、言ったじゃない! 勘だって!」

 勘とかそれ以前の問題のような気がする。

「結局、後の部員はどうやって集めるつもりなんですか? ローラー作戦でもかますつもりですか?」

「それも有りね!」

 うわあ。

 いやな知識を植え付けちゃった気がするぞ。

「善は急げ、よ! 後は任せるわよ、ポンタ! とにかく、私は面白そうな部員を片っ端から攫ってくるから! そこんとこよろしく!」

 そう言って、塩山昭穂は廊下を走ってどこかへ消え去っていくのだった。

 はっきり言って、嵐のような女だった。

posted by かんなぎなつき at 22:30| Comment(0) | ようこそ、SF同好会へ!

2018年12月12日

第一章-01

 高校のレクリエーションに部活紹介のコーナーがあるということは、既に教室で貰って居たしおりから得ていた情報の一つだった。しおりというよりはパンフレットに近いそれは、いったいどれくらいのお金を費やしているのだろうかと考えてしまいそうになる。しかしながら、すんでの所でそれを止める。あまり考えるべき内容ではないと判断したためだ。あまり考えるべきことではないと理解したためだ。

 部活紹介と言っても簡単なレクリエーションを提示するだけの、簡単なものであり、例えばバスケ部なら実際にダンクシュートを決めてみたり、野球部ならピッチングを決めてみたり、吹奏楽部なら実際に一曲演奏してみたり、と様々なスタイルで各々の部活動を紹介していた。

 そして、最後。

 大トリを飾るのは――俺も、皆も、想像が出来なかった部活動だった。

「何だ? SF同好会、って」

 誰かが言った。

「きっと、SFのことを研究しているんじゃないの?」

「じゃあ、文化系かあ。面白そう」

 そんな雑音をよそに、一人の少女が壇上に上がってきた。

 おさげを揺らしながら歩く少女は、どこか堂々としたたたずまいをしている。

 そして少女はマイクを持って、言った。

「皆さん、SFは大好きですか? サイエンス・フィクションでもすこし不思議でも構わない、その定義は問いません。もう一度言います、皆さん、SFは好きですか?」

 それを聞いてざわつく一年生連中。

 何を言っているのかさっぱり分からない俺は、しかし何か不思議な魅力を感じてしまっていたのか、彼女の話を聞いていた。

「私が求めているのは普通の人材じゃありません。SFが好きで、好きで、大好きな人たち。そんな人たちと日々不思議について研究していきたいと思っています。部員は……えーと、私だけなのだけれど! 今ならなんと副会長の座も着いてくるぞっ!!」

 それは完全に人材不足であるということを隠しきれていないだけなのでは……!?

「以上、SF同好会の紹介は終わりです! もし何かありましたら、文化部部室棟に張り紙を貼ってあるから、そこに来ること! あ、そうだ。最後に私の名前を行っておかないと。私の名前は、塩山昭穂。どうぞ、SF同好会をよろしく!」

 そうして。

 まるで嵐のように暴風雨だけをまき散らして去って行ったかのように。

 塩山昭穂は壇上から降りていくのだった。



 このようにして、何にも部活の紹介をしていないにもかかわらず、大トリを飾ることとなったSF同好会に興味を抱いた人間も少なくなく、文化部部室棟に張り紙が貼られているという情報を元に、放課後俺はその場所へ歩いていた。

 何故、歩いていたのだろうか、って?

 それは俺にも分からない。でも今思えば――子供の頃、『妄想だ』と投げ飛ばしたSFへの理解を少しでも強めたかったからかもしれない。

「駄目ね。全然、駄目。あんたは、この同好会には向いてないわ」

 扉を開けようとすると、昭穂の鋭い声が聞こえてくる。

 大方、拒否された時の反応なのだろうけれど――にしては、強すぎないか? その当たり方は。

 そうして外に出て行く一人の男子生徒。

「お前も、ここの狙いか? ここ、楽そうでいいもんな」

 急に声をかけられて、何を言い出してきたのかと思ったが、先ずは話を合わせておくことにした。

「……まあ、物珍しいからな。興味が湧かなかった、と言えば嘘になる」

「辞めといた方が良いぜ。ここは」

「どうしてだ?」

「何だって知らないけれど、あの会長とは馬が合うとは思えねえ。ほんとうにアンドロイドや宇宙人や異世界人が居ると思い込んでいやがる。そんなの、居る訳ねえってのに」

 成る程。

 つまり、そういうことを信じている頭の中がお花畑の人間だということか。

 やはり、諦めるべきだろうか。そう思って、踵を返そうとした――そのときだった。

「何だ、まだ一人居るじゃない! さあさあ、あなたも面接希望者なんでしょう?」

 扉を開けて、中から塩山昭穂が出てきたときには、流石に何も出来ない、と思った。

 ここで、いいえ違います別人です、と言えれば良かったのだろうが、それ程までの力は俺には無かった。

posted by かんなぎなつき at 21:48| Comment(0) | ようこそ、SF同好会へ!

2018年12月11日

プロローグ

 サンタクロースを信じていたのはいつまでだって話をすると、そこはやはり家庭事情が絡む事になるかもしれないからどうでもいいじゃない、なんて結論になるのかもしれないけれど、でも世間話の一つとしてはちょうどいい話題になるのかもしれない。

 では、俺がサンタクロースをいつまで信じていたかと言われると、恥ずかしながら小学校中学年までのことである。銀座の博品館に家族で出かけた時の話に遡る。あそこは油圧式のエレベーターを採用していてな、乗ると少し匂いがするんだ。……言ったところで、分かって貰えるかどうか分からないのだけれど、ともかく、その博品館にはビリケンさんと呼ばれる縁起の良い人形が置かれていたんだ。大阪の生まれの人間だったら、そこらへんの知識は明るいかもしれないな? ビリケンさんというのは、足を触ると願いが叶うらしいんだ。俺は父親から聞いたその話題を信じて触っていた物だよ。銅像に何の価値も無いのにな。気づいてしまえばそれでお終いかもしれないが、気づいてしまっている前の事は、はっきり言って、思っている事よりも、面白いことかもしれないな。まあ、それはどうだっていい。……ええと、何処まで話したっけ? ああ、そうだ。博品館のビリケンさんの話だったな。そこで俺は当時流行っていたRPGソフトが欲しいってねだったんだ。そうしたら次の日ホテルで目を覚ましたら、プレゼントが枕元に置かれていてな。俺が欲しかったソフトが入っていた訳だよ。そりゃ、喜ぶよな。当時はサンタクロースが居るって本当に信じていたんだからさ。

 そういうわけで、そんなおしゃれなイベントがやってきたかと思いきや翌年に至っては両親から直接プレゼントを貰うというサンタクロースもへったくれも無い受け取り方だった訳で、俺の中でサンタクロースは存在しない理論が構築されてしまった訳だ。

 同時に、テレビで良く見る幽霊やUFOなども存在しないと思い切っていた。そう思い切る原因となったのは父親だった。父親は現実的なものしか信用しない筋がある。それに、俺に言ってくるのだ。テレビで流れているこの映像はデタラメだ、等と。そう言われてしまえば、そんなことを信じることすら無くなってしまうのも当然のことだろう。

 超能力者、幽霊、未来人、UFO、宇宙人……。そういった類いのことをさっぱり信じなくなったのは、中学生ぐらいになってからだと思う。思えば平々凡々な人生を送ってきたものだと思っている。そんな人生で楽しかったのか、と言われると微妙なところだ。それが楽しいか楽しくないかを判断するのはあくまでも自分自身であり、それ以外の人間が勝手に『楽しい』だの『楽しくない』だの判断してはいけないからだ。いや、別に、してはいけないというルールは無かったはずだけれど。

 でも心の中では描いていたはずだ。宇宙人がやってきて宇宙の秘宝を狙うことになるだとか、未来人がタイムマシンでやってきて「この時代は危ない」的なメッセージを聞いたりだとか、超能力者が現れてバトル的な展開になったりだとか。

 でも、残念ながら、そういう連中は居ない。

 あくまでもそいつらは空想の中に留めておいたほうがいい。

 自分がちゃんと高校生活を送りたいのであれば、そうあるべきだ。

 俺はそんなことを思いながら、坂の上にある御所高校に入学し――。



 ――そして、あの同好会の面々に出逢った。



つづく。
posted by かんなぎなつき at 14:13| Comment(0) | ようこそ、SF同好会へ!