コールサイン、アイアンロール1。こちらグラディア上空。
空域JX7784にて敵を発見。攻撃許可を求める。
……。
出来ないだと? 何を考えているか解らないか。あれを倒さないと我が国にも被害は及ぶ。少なくとも今のうちに倒しておけば被害はグラディアのみで済む。それが作戦本部の共通見解では無かったか。
……。
こちらアイアンロール1。心配不要だ。奴が倒れたこと、また倒れなかったことによる二次災害によって私に被害が及ぶことは当然有り得るだろうが、それでもあいつを倒さないと未来はない。
いつの時代だって戦争は起きている。そして、戦争は終わらない。だが、戦争を終わらせるように、早める手段は幾らだって存在している。私がこの操縦桿にあるボタンを教えてしまえば、高速戦闘機アイアンロール1に標準搭載されているミサイルが全弾命中する。それは機械による自動照準修正プログラムが作動しているからだ。それくらいは理解しているだろう。だから、私がどうなろうと、あいつには攻撃が命中する計算になる。
……。
ああ、解っている。解っているとも。だが、あいつを倒さないと何も始まらない。それくらい解っているのは上層部だって当然のはずだ。まさかあいつらは、お茶を啜りながらギャンブルに賭けたバカ人間の如く戦況を確認しているのではあるまいな?
ああ、済まない。言い過ぎた。だが、許可を頂きたい。それは事実だ。それによって私の国にどのような被害が起きるか、解っているだろう。そして上層部は私が提言すればそれを鵜呑みにするはずだ。なぜなら上に行けば行くほど、直近の戦闘経験が浅くなっていく。戦争は常にアップデートされていくソフトウェアのようだよ。まあ、それをどこまで理解しているか、という話ではあるがね。
……。
了解した。許可していただき、感謝する。それでは今からミサイル掃射を行う。
以上をもって通信を終了する。作戦終了次第、こちらから通信を送る。
以上だ。健闘を祈る。
以上が、レイザリー王国に残された戦闘機とセンターとの会話である。
そうして、彼女の口から語られた『あいつ』とはいったい何であるのか。
その正体が人々の目に触れることになるまで――少しだけ時間を要することになる。
2016年09月22日
ネピリム戦記 序章
posted by かんなぎなつき at 22:28| Comment(0)
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