2016年10月04日

カミツキ:リビルド/タケミカヅチ編(12)

「神憑きに適性さえあればなることが出来る……って、もしかしてそれって」

「適性は、きっと君にもあると思う。……それは、神格級たる、あのオオワタツミに襲われていたことからも十分に頷けるよ」

「神格級……。神に近い存在、だったな。確か。でも、そんなことがほんとうに出来るのか?」

「……残念ながら、今は私がそう信じている、としか言いようがないな。はっきり言って、ここまで言って申し訳ないが、適性があるかどうかは神事警察で調べなくてはならない」

 そこまで言っておいて、わからないって。

 実際に調査して実は違いました、ってオチだったらそれはそれで不味くないか?

「……まあ、そんな気落ちすることも無いだろう。仮に適性が無かったとしても、神格級に襲われてしまったことで暫く監視下に入ることになる。それならおいそれと神格級に襲われることも無いだろう」

 マリナはそう言った。

 車はそのまま東京の夜を駆けていく。


 ◇◇◇


 神事警察に到着したのは、午後十時を周ったあたりだった。まさかここにまたやって来ることになるとは思いもしなかったが、まあ、ここまで来たら受け入れるしか無い。

 オフィスに入ると、眠そうな表情を浮かべながら、めぐみがソファに腰かけていた。

「お待たせ、めぐみ。無事に彼を回収してきたわよ」

 そう言ってさっきエレベータホールの自動販売機で買ってきた缶コーヒーを彼女の頬に当てる。もちろんアイスの。

 ひゃんっ?! とふつうは聞かないような声を上げためぐみは思わず飛び上がって、目をぱちくりぱちくりした。そうして、その相手をロックオンすると睨み付ける。

「……あなた、それは苦手だから絶対にしないようにと伝えたはずでしょう。それとも忘れてしまったのですか、この鳥頭」

「おーおー、ひどい言い様ね。別にいいじゃない、減るもんじゃないし。……それと、連れてきたわよ、彼。また神格級に襲われていた。あなたの言っていたとおり、ね」

 そう言って俺を親指で指すマリナ。

 めぐみは眼を擦って――やっぱりまだ眠たいのではないだろうか――立ち上がると、俺に近づいた。

 こう見るとめぐみって俺より頭一つ分小さいくらいなのか。いや、別にそれについては問題ないのだろうけれど、こんな風に女性に詰め寄られたことがないから、ちょっと免疫が無い……!

「私の想定通り、ということでしたね。まあ、ひとまずあの家にはもう住めないでしょう。貴重品は持ってきていますね? ならば、問題ないでしょう。あなたを神事警察に招待します。ようこそ、あなたは今日から私たちの仲間ですよ」

 にっこりと笑みを浮かべて、めぐみはそう言った。

 そうしてこれが、俺が神事警察に入ることになった最初のエピソードであり、これから続く神事警察との長い付き合いの始まりであることは――今の俺にはさっぱり解っちゃいないことだった。


タケミカヅチ編 終わり
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2016年09月26日

カミツキ:リビルド/タケミカヅチ編(11)

「何をしたんだ、あの女性に」

「ん。ああ、あれは『サトリフラッシュ』。あれを見た人は一定時間の記憶を失う力を持っている。決して某地球外生命体を確認した人に圧力をかけるようなメンインブラック的な存在では無い。それだけは言っておこうか」

 俺はマリナに言われるまま、マンションの駐車場に止まっていた赤いスポーツカーに乗り込んだ。

 俺が乗り込んだことを確認して、マリナはそのままスポーツカーを運転し始める。

 大通りに出て、そのままどこかへと走り出す。

「……いったい、どこへ向かうんですか」

「神事警察よ。……正直、もうこれ以上あなたの自由意志を尊重することが出来ない」

 自由意志。

 それはさっき俺が、神事警察から出て行ったこと。それを意味しているのだろうか。

 マリナの話は続く。

「正直、さっきまであなたのことをただの一般市民としか認識していなかったよ。めぐみからの説明があったとはいえ、あなたの能力は秀でたものではなかった。別に何者かに襲われるものではないと考えていたからね。だからこそ、あなたのことは監視するだけに留めておいた。……でも、まさか神格級の存在が姿を見せるとはね。もしかしたら、あなたは私が思っている以上に危険な存在なのかもしれない。もちろん、人間にとってではなく、神格級の彼らにとって、ね」

「……神格級?」

「要するに、私と同じように神の名を継いでいる存在、ということだよ」

 ふいに声が聞こえた。

 振り返ると、後部座席に先ほどの電撃を放った男が律儀に腰かけていた。

「私と……ということは、あなたも?」

「私の名前は、タケミカヅチ。名前だけは聞いたことがあるのではないかな? 雷を司る神の名前だよ。その名前と能力を、僕は引き継いでいる。もちろん神としての神格(じんかく)もある」

「済まない。もう、何が何だかさっぱり解らないのだけれど……。つまり、神の力を手に入れている存在、ということになるのか?」

「近からず遠からず、といった感じかな」

 俺の質問に答えたのはマリナだった。

 マリナは運転をしたまま、俺に話を振り続ける。

「とにかく、それについての説明もしておきたい。あなたに関しては、それほどの能力があるということは、恐らく『カミツキ』としての力もあるかもしれない。今では適性さえあれば、四分家では無かったとしても『カミツキ』になることができるからね。便利な時代になったものだよ」

「……カミツキって、『神憑き』のことですよね? 確か、人間に神の力を憑かせることで、その力を利用することが出来る、という……」

「その通り。前、私かめぐみか……どちらかが説明したときは、四分家しかその力を持っていない、と言った。しかしそれは、生まれながらにして持っている可能性が高い、というだけ。今ではその適性さえ持っていれば、神憑きになることが出来る。その資格を君は持っている、ということになるのかな」
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2016年09月25日

カミツキ:リビルド/タケミカヅチ編(10)

「き……、貴様! 神事警察か。何をやってくるかと思えば、神を捕まえようと、裁きを加えようとする愚かな組織が、何をするのか! 人間は神が作り出したというのだぞ!!」

「あのねえ……。別に自分が偉いと思うのは仕方ないけれど、だからといって何をしてもいいというわけではないでしょう? ほんと、あれから増えたよね。そういう驕る神。神は人間が信じなければ、正確に言えば信者の数に応じて神格化するその度合いが変わっていくというのに、それを理解していないのだから」

 神に対して説教を垂れている。

 これだけ見ると、すごい異端な光景に見えるけれど、しかしながら、マリナは普段もこのような様子なのだろう。

「……神に説教をするとは、貴様、余程死にたいようだな?」

「いいや、私は死にはしないよ。……封印されるのはお前のほうだよ」

 そうしてもう一発、封霊銃を撃ち込んだ。

「何度撃っても無駄だ。封霊銃など、人間の開発した技術に降伏するわけがあるまい!」

「じゃあ、そこまで弱らせればいいだけだ」

 それを聞いて、オオワタツミは振り返る。

 しかし、それよりも早く、オオワタツミが立っていた水たまりに電撃が走った。

「が、がああああああああっ!?」

 電撃を受けて、オオワタツミは息が上がっていた。倒れることはしなくとも、体力は弱ってしまったらしい。

「まさか、貴様が人間の手に落ちているとはな……!」

「別に人間の手に落ちたつもりはないよ。昔から彼女とともに行動しているだけだ」

 そこに居たのは、鹿のようなお面を被った男だった。背中には二本の刀を携えている。そして、彼の身体の周囲にはピリピリと静電気のようなものが纏わりついていた。

 男は笑みを浮かべる。

「それにしても、海の神と恐れられた君がこんな内地に居るとはね、驚きだよ。いったい何を目的に行動しているのかな? まさか、人間を襲撃するためだけに、ここまで出てきたわけではないだろうし」

「……貴様に言う筋合いは無い」

 ズドン、という音がした。

 それは、再び封霊銃の弾丸がオオワタツミに命中した音でもあった。

 しかし今回はさっきまでのように命中しても意味がないような状態ではなく、ゆっくりとその弾丸に吸い込まれていった。

 そうして最後には弾丸だけが残される形になった。

 そして女性は、何が起きたのか解らないという感じで、床に崩れ落ちていた。

「君、これをかけていたまえ」

 渡されたのは、サングラスだった。

 取り敢えず、言われたとおりにかけておく。

 マリナは女性に近づいて、そのまま何かを取り出した。それはボールペンのような何かだったが――、その直後、眩い閃光がそのボールペンから発せられた。

 女性は暫くぼうっとしているように見えたが、すぐにゆっくりと立ち上がると、

「あれ……、私、何をしていたんだろう……?」

「大丈夫でしたか」

 女性に声をかけるマリナ。マリナの顔を見て、首を傾げる。

「あなたは……?」

「ああ、ちょっとここのマンションの人間に用事があったのですが、通路にあなたが倒れていましたので。恐らく立ちくらみの類でしょう。お気をつけてください」

 そう言って立ち去って行った。マリナの言動、行動に違和感を抱くことなく女性は自分の家へと戻っていった。
posted by かんなぎなつき at 05:57| Comment(0) | カミツキリビルド