2016年09月19日

羊使いとプリンアラモード(5)

 ヒリュウさんが三人分のコーヒーを持ってきたのはそれから十分くらい経過したときのことだった。

「お湯を沸かしてからだから、少々時間がかかってしまったわい。仕方がないが、許してくれ」

 ヒリュウさんがトレーに乗せていたコーヒーカップをテーブルに置いていく。

 そのタイミングを見計らって俺はメリューさんからのお土産を取り出した。銀色の箱だったそれを開けると、箱の中から冷気が出てきた。箱の中は冷気が立ち込めているようだった。

「……これ、すごい技術だな」

 俺の世界でいうところの、ドライアイスだろうか。とにかく、そのような冷たい空気が出てきた。

 リーサは驚くことなくそれを見つめて、

「へえ、氷冷魔法を箱に閉じ込めている、ということかな。それにしてもどういう技術を使っているのだろう。もしかして……あのキッチンにそれを作れる装置でもあるのかな?」

「そんなこと俺に質問しても知るわけがないだろ。俺だってあのキッチンには数回しか入ったことがない。あのキッチンの設備をすべて知っているのは、メリューさんとティアさんくらいだからな」

「ほっほ。まあ、そんなことはどうだっていいのではないかね。その中には何が入っているのか、先ずはそれを解決すべきでは?」

 確かに。ヒリュウさんにそう言われて俺は箱の中から何かを取り出した。

 中に入っていたのは――プリンアラモードだった。

 プリンを中心にホイップクリーム、イチゴ、プレッツェル、キウイ、オレンジがきらびやかに盛り付けられている。毎回思うけれど、メリューさんは幅広いジャンルで完璧にこなすんだよなあ、まさに料理チートとでも言うべきか。

「おお、プリンアラモードじゃないか。これを配達してくれるとは、メリューちゃんも隅に置けないなあ」

 そう言っていたヒリュウさんの表情はとても朗らかなものだった。

 箱の中にはスプーンやフォークも入っていた。用意周到だな、と思っていたが最後に手紙まで入っていた。

「……何だろう、この手紙?」

 俺は疑問に思って、綺麗に四つ折りにされていた手紙を、ゆっくりと開いていった。
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2016年09月18日

羊使いとプリンアラモード(4)

 ヒリュウさんの家に到着したのはそれから十分後のことだった。まあ、あの後すぐに家の影が見えたことだし、休憩もなしに頑張ってみたのだけれど、その結果家の前につく頃にはもうへとへとだった。

 ドアをノックすると、直ぐに返事があった。

「失礼します。ボルケイノですが……うわっ!」

 なぜ俺が唐突に発言を中断したか。それには理由がある。扉を開けた途端、狼が俺に襲い掛かってきたからだ。思わず倒れこんでしまい、荷物が散乱する。

 狼は俺の身体の上に乗ったまま、動かない。いや、正確に言えばペロペロと俺の顔を舐めていた。くすぐったい、というかこそばゆい。

「おやおや、だれかと思えばボルケイノのマスターじゃないか。おい、マノン。離してやりなさい。その人たちは良く会っているだろう?」

 それを聞いて狼――マノンは俺の上から降りた。

 それで漸く俺は立ち上がることが出来た。

「それにしても、どうしたのかね。ボルケイノは宅配も行うようになったのかね? だとすれば、とても嬉しい話だが」

「いえ、今日はいつもの時間になっても来られなかったのが気になったので……」

「ああ、それか。それは……こいつじゃよ」

 ヒリュウさんの足元には、一匹の小さい狼が居た。

「マノンの子供でね、名前はマティスというんだ。男の子だよ。しかしまあ、マノンと仲が良いものでね、いつも一緒に居る」

 しかし、よく見るとそのマティスが弱弱しく見える。

「……解ったかね。私がここを離れることが出来ない、その理由が」

 俺は小さく頷いた。

 つまり、ヒリュウさんが今日ボルケイノにも、麓の町にもやってこなかったのは。

「マティスくんが病気にかかってしまったから、なのですね?」

 言ったのはリーサだった。

 それを聞いて、俯いたヒリュウさん。

「ああ。そうだ。……それにしても、わしは客人にお茶も出さずに立ち話をしていたとはな。とにかく、そこの椅子に座りなさい。わしがお茶を出してやろう。ボルケイノのコーヒーの味は出せんが、そのあたりは許してもらうことにしようか」
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2016年09月17日

羊使いとプリンアラモード(3)

 ところが、実態は逆だった。

「……ケイタ、休みましょうか?」

「ふう、ふう……。う、うん、そうしようか。それにしても、体力があるね、リーサは。ちょっと想像と違って驚いちゃったよ」

 そう。

 今ここで話があるように、俺の予想とは大きく違うものになっていた。確かに俺はこの山道を数回上り下りしていた。だからこそ、昇り切れるという油断があった。そして、その油断に見事にはまった。

 今はというとリーサが俺より少し前に行ってちょうど座り心地のよさそうな岩を見つけたのかそこに腰かけて俺を待ち構えている状況だった。

 俺は荷物を持っているからその分がある――と言ってもそれはただの言い訳に過ぎなかった。そんな言い訳が通るとは思っていないから省くことになるとは思うけれど、それにしたってこれは酷い。もっと体力をつけないといけないな、と俺はその時実感した。

 漸く岩場に到着して俺はリーサの隣に腰かける。

 リーサは自分で持ってきていた水筒からお茶を飲んでいた。俺も飲もう、そういえばのどが渇いていた。

 水筒を開けると冷えているお茶が未だ温度を保っていた。有難い。身体が火照っている以上、このように冷たいものはかなり嬉しい。

 そう思いながら俺はお茶を一口飲む。口の中に冷たいお茶が入っていく。それは喉、そして胃に流し込まれる。きっと胃もびっくりしていることだろう。これほど冷たいお茶が流し込まれているのだから。

「……荷物、持ちましょうか?」

 リーサの問いに、俺は首を横に振る。

 そこまでしてもらうのは、流石に男が廃る。

「いや、大丈夫だよ。別にあと半分も無いから、さ。……それにしても、これはいったい何が入っているんだろう?」

「メリューさんに聞いていないの?」

 そういえば、メリューさんに中身を聞こうとしたけれど、「到着するまでのお楽しみだ」としか言わなかったような気がする。これは、ヒリュウさんへのお土産なんだよな? なぜ配達する俺たちも知らないってことにするのだろうか。まあ、メリューさんはこういうことが好きだから……、仕方ないのかなあ……。
posted by かんなぎなつき at 02:50| Comment(0) | ドラゴンメイド喫茶