2016年10月04日

魔女学校からの刺客(2)

 それを聞いてリーサは頷きつつ、

「別にそれがどうしたというのですか。もう、あの魔女学校と私は縁を切ったはず。だから、別にあなたがやってくる必要は……。まさか、私を魔女学校に連れ戻そうと思っているとか?」

 それを聞いてアルフィアはこくりと頷いた。

「……ええ、その通りですよ。あなたをここから出して、学校へ帰還させる。そのために私はここにやってきたのです」

「いやです! 何でそんなことを。それはつまり、魔女学校からの人材流出を阻止するために、あなたたちが適当に考えただけのことでしょう!」

「……そうね。それは言えます。ですが、一度でいいのです。もどってはいただけないでしょうか」

「戻ったら、二度と私は外の世界に出ることは出来ない。……そうよね?」

「……、」

 その言葉に、アルフィアは何も言わなかった。

 それを傍で見ていたメリューさんは、俺に声をかける。それもとても小さい声で。ひそひそ声と言ってもいいくらいのトーンだった。

「……どうしました?」

「いいからとにかくリーサを呼んで来い。あと、お前はどうにか時間をかせげ。ちょっと今から色々とやらないといけないことがあるから」

「はあ。わかりました。変なことだけはしないでくださいよ」

「私が変なことをするとでも思っていたのか、お前は」

 ええ、十分に考えられますよ。

 とまあ、そんなことが言えるわけもなく、俺はリーサを呼ぶことにした。そしてメリューさんと合流し、そのままキッチンへと消えていった。

「お待ちなさい! まだ話は終わっていませんよ」

「……あなたは、ここに何をしに来たのですか」

 さて、ここからは俺の時間稼ぎタイム。

 どうにかしてリーサが戻ってくるまで、機嫌を損ねないようにしないといけない。さあ、どこまで抗えるだろうか。

「何をしに来た、って……。マスター、聞いていて解らなかったのか。私は彼女を魔女学校に連れ戻しに来た」

「客としてやって来たわけではない、と?」

 それを聞いて、何も言えなかったアルフィア。

 俺はさらに、話を続ける。はっきり言って、こういう人間は客商売をしている上でみると迷惑だ。
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2016年10月02日

魔女学校からの刺客(1)

 ドラゴンメイド喫茶、ボルケイノ。

 その入り口は様々な世界の様々な場所に繋がっており、それを介して様々な世界のキャラクターが登場する、とても不思議な喫茶店だ。

 そして俺はそのドラゴンメイド喫茶で雇われマスターをしている。別に大変かといわれるとそうでもなくて、ただ暇をしている日が最近多いわけだけれど。

「ねえ、ケイタ。今日は誰も来ないね。ヒリュウさんも朝イチに来てもう帰っちゃったし……」

 カウンターには俺のほかにリーサが居た。リーサはいつもほかのお客さんの注文を聞いたり(注文といってもメニューは一種類しかないから大半はクレーム処理になるが)、メニューを運んだりといろいろ行う。ウェイトレス的ななにかだ。

 リーサは掃除をしていた。誰も来ないから、何もやることがない。そうリーサは言っていた。だったら今日くらい休みを取ればよかったのに、と思ったがリーサ曰く「普段掃除出来ていないところも出来るからちょうどいい」とのこと。

 なんというか、女心は解らない。

 カランコロン、と鈴の音が鳴ったのはちょうどその時だった。

 ドアが開き、入ってきたのは三角帽を被った黒いローブの女性だった。

「……いらっしゃいませ」

 俺はいつもの営業スマイルで声をかける。

 カウンターに腰かけた女性は、リーサを見るや否や声をかけた。

「もしやあなた……リーサではありませんか?」

 それを聞いたリーサは目を丸くして、黒いローブの女性に訊ねる。

「まさか……、アルフィア先生?」

 先生? その言葉を聞いて、俺は首を傾げる。

 そしてアルフィアと呼ばれた女性は三角帽を外した。

 クリーム色の長い髪だった。白磁のような肌で、目鼻立ちしているその顔は、モデルか何かと言われても造作ないだろう。

 そのアルフィアはリーサに目線を合わせ、

「長らく探していましたが、まさかここに居たとは。……探しましたよ、世界最高の魔女、ミカサ・エルフェイザの最後の弟子。あなたがミカサ・エルフェイザの弟子になると言って魔女学校を飛び出て、もうどれくらい経過していたでしょうか。ほんとうに弟子になったときは驚きましたが」
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料理の修行志願?(5)

 そしてリューシュはゆっくりとそのスープを啜った。

「美味しい……」

 感嘆交じりの声が漏れた。

「そりゃ、当然、美味しいに決まっているじゃない。私が作っているものだからね。その塩むすびだって、スープだって、懇切丁寧に作っている。はっきり言ってしまえば、その塩むすびだけでも『美味しい』と言えるようなものを作らないとダメ、ということかな」

 それを聞いたリューシュは胸を打たれたような衝撃を受けた――ように見える。あくまでもそう見えるだけだ。

「……美味しい。美味しい、とても、美味しい! メリューさん、この味付けを教えてください!」

 それを聞いたメリューさんの目は丸くなっていた。

 もっといえばきょとんとした表情になっていた。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。まあ、それは俺だって思っていなかったけれど。

「……別にいいけれど、それはただ、配分を考えるだけの話。つまり、初歩中の初歩だけれど。それでもいいの?」

 こくり、と何度も頷いた。

 それを見たメリューさんもまた、大きく頷くのだった。


 ◇◇◇


 後日談。

 というよりもただのエピローグ。

 結局、リューシュはメリューさんお手製の塩むすびのレシピだけ習得して元の世界へ帰ることとなった。いくらこの世界の時間感覚が別世界とはまったく違うものだからといってずっとここに居ることはあまりよろしくない。メリューさんがそう決めたことだった。

 その後、彼女がどうなっているかは解らない。母親に色んな料理を教わっているのだろうか。或いは母親と一緒に料理を作っているのかもしれない。

 きっと、時折料理をしている最中に見せるメリューさんの笑顔も彼女のことを思い返しているのだろう。そんなことを思いながら、今日も業務に励むのだった。


終わり
posted by かんなぎなつき at 02:54| Comment(0) | ドラゴンメイド喫茶