世界の中心に聳える、知恵の樹。
それは世界の知恵を司る樹として言われており、星の記憶をもとにエネルギーに変換して、それが樹として育っている。
そして、フロミネーシュ王国の兵士であるイルはある夜、流れ星を見つける。
その流れ星は、普通ならばそう珍しいことではない。
だからこそ、彼は気に留めなかった。
しかしながら、彼は気付かなかった。
その流れ星が、彼を取り巻く運命の物語、その始まりであるということに――。
◇◇◇
イルの一日は、自己トレーニングから始まる。腕立て、腹筋、木刀の素振り。これをもう何年も、正確には彼が兵士として登用されるようになってからずっと続けている日課になっている。
「よう、イル。今日も元気にトレーニングしているな?」
そう言ったのは彼の兵士仲間であるレストだった。レストはイルと一緒に自己トレーニングをする仲になっている。
レストは笑みを浮かべながら、木刀を肩に載せる。
「それにしても、それほど頑張っているというのに、どうして国王はお前を上に上げないと思う? 気になったことは無いか?」
「……別に気になったことは無いよ。王様に認めてもらって、僕は兵士になることが出来た。それだけでとても嬉しいから」
「昇任なんて考えていない、か……。上に行くことばかり考えている上司に聞かせてやりたい言葉だよ」
レストは頭を掻いて、思い出したかのように話を始めた。
「そういえば、国王陛下のお呼びだ。話を聞いていなかったか?」
「……え?」
それを聞いて、イルは木刀の素振りを止めた。
「それ、ほんとう?」
「嘘を吐いてどうする。いいから急いで行ってこい。もしかしたら昇給のお話かもしれないぞ。まあ、国王陛下自ら話をするということは、もしかしたらそれとは別の、もっと重要な話かもしれないが」
「ありがとう、ちょっと行ってみるよ」
そうして、彼は国王陛下のもとへと向かうのだった。
◇◇◇
謁見の間にて。
国王陛下とイルは対面していた。とはいえ、イルは跪いているため、実際に顔を合わせているわけではないが。
「イル・ルスムークよ。昨日、我が国の領土に落ちた流星のことは知っているかね?」
単刀直入に、国王陛下から質問があった。
イルはそれを聞いて、大きく頷く。
はっきりと、見えるように頷く。
「……ならば、話が早い。その流星の被害を調べてもらいたい。しかし、被害が未知数であるため、人員をそう割くことが出来ない。だから、イル。君一人で流星の被害を確認してもらいたい。大丈夫かね?」
「ははっ。畏まりました」
「ならばよろしい。私から武具を授けよう。装備しているだけで強い力を得るであろう」
国王陛下はイルに何かを差し出した。
イルは立ち上がり、それを丁重に受け取る。
それはペンダントのようだった。黒い宝石のようなものが付いており、吸い込まれるような魅力を感じさせる。
「では、下がるがよい」
その言葉に従って、イルは謁見の間を後にした。
これが、大きな物語――そのはじまりであることに、まだ彼を含めて、誰も気付かないのだった。
2016年07月04日
イルの物語 序章
posted by かんなぎなつき at 00:25| Comment(0)
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