「美味しい……」
感嘆交じりの声が漏れた。
「そりゃ、当然、美味しいに決まっているじゃない。私が作っているものだからね。その塩むすびだって、スープだって、懇切丁寧に作っている。はっきり言ってしまえば、その塩むすびだけでも『美味しい』と言えるようなものを作らないとダメ、ということかな」
それを聞いたリューシュは胸を打たれたような衝撃を受けた――ように見える。あくまでもそう見えるだけだ。
「……美味しい。美味しい、とても、美味しい! メリューさん、この味付けを教えてください!」
それを聞いたメリューさんの目は丸くなっていた。
もっといえばきょとんとした表情になっていた。まさかそんなことを言われるとは思っていなかったのだろう。まあ、それは俺だって思っていなかったけれど。
「……別にいいけれど、それはただ、配分を考えるだけの話。つまり、初歩中の初歩だけれど。それでもいいの?」
こくり、と何度も頷いた。
それを見たメリューさんもまた、大きく頷くのだった。
◇◇◇
後日談。
というよりもただのエピローグ。
結局、リューシュはメリューさんお手製の塩むすびのレシピだけ習得して元の世界へ帰ることとなった。いくらこの世界の時間感覚が別世界とはまったく違うものだからといってずっとここに居ることはあまりよろしくない。メリューさんがそう決めたことだった。
その後、彼女がどうなっているかは解らない。母親に色んな料理を教わっているのだろうか。或いは母親と一緒に料理を作っているのかもしれない。
きっと、時折料理をしている最中に見せるメリューさんの笑顔も彼女のことを思い返しているのだろう。そんなことを思いながら、今日も業務に励むのだった。
終わり
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