私と母親は貧しいながらも普通に暮らすことが出来たので、とても辛くはありませんでした。
ですが、母親はあまりレシピの種類が多くなく、私としてもそれは悩みの種でした。ですから、いつも同じような料理ばかりでごめんね、という母親の言葉がいつも辛かったのです。
その日は臨時収入が入ったので、お店のご飯を食べようと言ってきました。いつもそんなことは有り得ませんでしたから、私にとっては嬉しいことで、つい小躍りしてしまうほどでした。
お店に入ると……とても美味しそうな香りがしました。行ったことのないお店だったけれど、とっても幸せそうな感じでした。
カウンターに座って、ご飯を食べました。たしか食べたのは、赤いご飯が卵焼きに包まれたものだったと思います。名前は覚えていないですけれど、とっても美味しかったです。
食べ終わって、私は母親に美味しかったねと言いました。母親もそれを見て頷いていました。
そして私は思いました。母親の笑顔を見たくて、このお店の料理をなんとか再現出来ないか、と。何とか手に入れる方法は無いものか、と。
そうして夜に母親と離れて、こっそりここに入っていました。そして、キッチンに入ったらサンドウィッチを見つけて、それを手に持っていこうと思ったらメリューさんに見つかりました。
これが、今回の顛末です。
◇◇◇
「不快ね」
メリューさんは少女の話を一通り聞き終えると、その一言を言い放った。
そりゃあ無いだろう、と思ったけれど実際に作っている人間からしてみれば仕方がないのかもしれない。たとえ、人情的な話があったとしても窃盗は窃盗。犯罪には変わりがない、ということだ。
メリューさんの話は続く。
「……まあ、でも、自警団には突き出さないであげる。ただし、一つだけ条件をつけるわ」
メリューさんは指を一つ立てて、そう言った。
「……何でしょうか……?」
「私が今から、一つあなたに料理を教えてあげる。そして、その料理を完璧にマスターするまで、あなたはここから出してあげない。これが条件」
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