「乗りましょう……って何を言っているんだ。あの女性を放って逃げろ、って?」
『じゃあ、問いかけますが、あなたはその女性を助けることができると思っているのですか?』
……答えることは出来なかった。
確かに今の俺にはそれを倒すことなんてできないだろう。そもそも、倒すことができるのだろうか。それが解らない。
例えば仮に、あのめぐみからもらった封霊銃があればなんとかなったかもしれない。
けれど、いまはそれを持ち合わせていない。
どうすればいいか――けれど、あの女性は助けておきたい。
『助けることだけはやめておいたほうがいい』
ただし、ここで巫女装束に釘を打たれた。
さらに巫女装束の話は続く。
『はっきり言って、今のあなたには力がない。力がない状態で、あの敵に立ち向かうことが出来るというわけ? はっきり言って、それは不可能でしょう』
「不可能かも……しれないけれど! だが、だからと言って見捨てろと?」
『じゃあ、一つ質問しますが、彼女とあなたに何の関係性が?』
「それは……!」
俺は答えることは出来なかった。
勿論、関係性は無い。強いて言えば、ただの隣人というだけの話だ。
しかし、それで結論付けてしまえば、だからこそ、助ける必要がないといわれてしまうのがオチだ。
『急いで外に出ましょう。あのカミサマが、人間に夢中になっている隙に』
「カミサマ……? あれも、神だって言うのか」
『正確に言えば、オオワタツミ。海神ともいわれる、文字通り海の神よ。そこから派生して水をつかさどる神としても言われているけれど……、それ以上は言わなくても解るでしょう。さあ、先ずは急いで逃げることを選択しましょう。あなたの命は、あなただけのものではないことを、十分に理解してもらわないといけないのだけれど』
「言わせてもらうが、俺は誰にも従わないぞ。目の前に助けを求めている女性がいて、何もしない、だって? それこそヘタレだ。そんなこと許されるはずがない」
そうして俺はスマートフォンをポケットに仕舞って、走り出した。
女性はまだ水たまりから浮かび上がるオオワタツミを見て動けなかった。
だから助けるなら、今のうちだ!
急いで彼女を助けないと……!
「待ちな」
背後から声が聞こえた。そして俺の背中を、誰かが軽く叩いた。
振り返ると、そこに立っていたのはあの女性だった。確か名前は――。
「瀬谷マリナ、だ。覚えていてもらって結構。さて……今、君は何をしようとしていたのかな?」
言いながら、オオワタツミに銃弾を撃ち込む。おそらくただの銃ではなく、あれもまた封霊銃の一つなのだろう。
マリナの話は続く。
「……一応言っておこう。私の知っているやつにもそういう無鉄砲な男はいた。なりふり構わず、自分のことは考えなかった大バカ者が。……おかげで今、私たちはそいつのせいで苦労しているわけだが」
一息。
「だが、そんなことはどうだっていい。ああなってしまったのはあいつの自己責任だ。だからといって、そういう無鉄砲でワガママで他人のことを助けたくて自分のことはどうだっていい大バカ者を増やしたくない。それは私だって十分に考えられることだ。それくらい、君だって理解できるのではないかな?」
銃口を再びオオワタツミに向けて、マリナはゆっくりと俺に向けて笑みを浮かべた。
2016年09月24日
カミツキ:リビルド/タケミカヅチ編(9)
posted by かんなぎなつき at 22:40| Comment(0)
| カミツキリビルド
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