ドアをノックすると、直ぐに返事があった。
「失礼します。ボルケイノですが……うわっ!」
なぜ俺が唐突に発言を中断したか。それには理由がある。扉を開けた途端、狼が俺に襲い掛かってきたからだ。思わず倒れこんでしまい、荷物が散乱する。
狼は俺の身体の上に乗ったまま、動かない。いや、正確に言えばペロペロと俺の顔を舐めていた。くすぐったい、というかこそばゆい。
「おやおや、だれかと思えばボルケイノのマスターじゃないか。おい、マノン。離してやりなさい。その人たちは良く会っているだろう?」
それを聞いて狼――マノンは俺の上から降りた。
それで漸く俺は立ち上がることが出来た。
「それにしても、どうしたのかね。ボルケイノは宅配も行うようになったのかね? だとすれば、とても嬉しい話だが」
「いえ、今日はいつもの時間になっても来られなかったのが気になったので……」
「ああ、それか。それは……こいつじゃよ」
ヒリュウさんの足元には、一匹の小さい狼が居た。
「マノンの子供でね、名前はマティスというんだ。男の子だよ。しかしまあ、マノンと仲が良いものでね、いつも一緒に居る」
しかし、よく見るとそのマティスが弱弱しく見える。
「……解ったかね。私がここを離れることが出来ない、その理由が」
俺は小さく頷いた。
つまり、ヒリュウさんが今日ボルケイノにも、麓の町にもやってこなかったのは。
「マティスくんが病気にかかってしまったから、なのですね?」
言ったのはリーサだった。
それを聞いて、俯いたヒリュウさん。
「ああ。そうだ。……それにしても、わしは客人にお茶も出さずに立ち話をしていたとはな。とにかく、そこの椅子に座りなさい。わしがお茶を出してやろう。ボルケイノのコーヒーの味は出せんが、そのあたりは許してもらうことにしようか」
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