カルノー山脈、その麓の町イスリア。
俺とリーサはそこに到着した。
「何度見ても思うけれど、この町はほんとうに長閑だよな……」
石畳の床、石壁の家、人は少ないが誰も皆笑顔だった。
物は無いが、それについて不満は無いように見える。それが、この町の人たちだった。
「ケイタ。あなたもこの町に来たことがあるの?」
「何度か、ね。ヒリュウさんに羊肉とミルクを買いに来たことがあるよ」
「ふうん……。いい街だよね。空気もいいし、人もよさそうだし」
リーサは鼻歌を歌いながらそう言った。どうやら上機嫌のようだった。
リーサがそう思ってくれているならそれはそれで大変ありがたいことだと思う。
「……それにしてもこの町のどこにヒリュウさんは?」
「この町には居ないよ。正確に言えば、この町の高台に居る。カルノー山脈の雄大な土地を使って羊を飼っているからね」
「あら、あなたたち。ヒリュウさんに会いに行くのかい?」
声の聞こえた方向に振り向くと、そこにはお店があった。野菜や肉、嗜好品など雑貨を売っているお店のようだった。
「ええ、そうですけれど……」
「だったらちょうどいい! これをヒリュウさんに持っていてくれないかい? ヒリュウさんに渡すのを忘れてしまってねえ。いつもならこの時間にやってくるのだけれどすっかり遅いものだから。……風邪でも引いているのかしら」
溜息を吐いてそう言ったのは割烹着を着た恰幅のいい女性だった。おそらくこの店の店主なのだろう。
女性が渡したのは白い風呂敷に包まれた何かだった。それが何であるか俺とリーサには解らなかったが、頼まれたことは引き受けるに越したことは無い。
風呂敷を受け取って、俺とリーサは町を後にするのだった。ゆっくり歩けば三十分はかからないだろうが、しかし山道を歩くことになる。俺はいいけどリーサはあんまり体力の無い印象があるし、こりゃいつも以上にゆっくり歩かないといけないだろうな、その時はそんなことを思っていた。
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