私が訊ねると、マスターはゆっくりと頷いた。
「ええ、そうなりますね。ここの料理はあの人が一人で作っていますから」
一人で作っている――か。だとすれば凄いことだ。これほどの料理を一人で作り上げるとは。私も見習わないといけないな。……見習っていれば、今もこのような生活はしていないのかもしれないが。
立ち上がり、マスターに訊ねる。
「……美味しかったよ。ところで、お金は?」
「銅貨二十五枚になります」
それを聞いた私は目を丸くしてしまった。
銀貨二十五枚と言えば、私がたまに行く居酒屋で使うお金とあまり変わらないくらい。正確に言えば、ちょっと高級なお店くらいだった。お店の雰囲気からして銀貨一枚くらいかかるのではないか、と思ったが……この満足度でこれならば素晴らしいお店だ。
私は麻袋に入っていた銀貨一枚を差し出し、
「それじゃ、これで」
マスターに手渡した。
「かしこまりました」
マスターはそれを受け取ると、店の奥に消えていく。それから少しして銅貨五枚をもってやってくる。こういうお店だから本物の銅貨かどうか怪しかったが(洒落では無いぞ)、見た感じ本物だった。
そして私はドアを開けて、
「御馳走様でした」
その一言を残し――お店を後にするのだった。
◇◇◇
それから。
リーズベルト王国の兵士の間である噂が飛び交うようになった。
それは首都の城下町にあるドラゴンメイドが営む喫茶店が出来たのだということ。自分が望む料理であれば何でも作ることが出来るのだという。
私はその噂をすっかり信じ込んで、城下町を探しまわるのだったが、それはまた別の話。
『ダークエルフの憂鬱』終わり
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