私はマスターのいうことを試してみることにした。まあ、こういうことは試してみないと解らないからな。百聞は一見に如かず、という言葉もあるくらいだ。
そうしてパンを千切り、それをスープに浸す。パンは吸収性が良く、直ぐにスープの色に染めあがる。まるで服に染料を使い着色しているかのように。
おお、見ただけで美味しそうだ。そう思って私はそのまま口にそのパンを放り込んだ。
結果は、火を見るよりも明らかだった。
口の中に広がるパンとスープの味、それはまさに今まで私が食べてきたものの中で一番の味だった。しみ込んだパンがいいアクセントになっている。まだしみ込んでいない部分のパンの食感も心地よい。
つけては食べ、つけては食べ、を繰り返していたらあっという間にパンが無くなってしまった。まだスープは残っている。くそう、まだパンをつけて食べたいというのに!
「パンのお代わりをご用意しましょうか?」
マスターからの言葉はまさに助け舟だった。
「おお、お代わりができるのか! ……追加料金とか、発生するのだろうか?」
「いえ、無料でお代わりが出来ますよ」
「ならば、お願いしよう」
きっと私の表情はとてつもなく綻んでいるに違いない。部下にも見せたことのない表情になっていると思う。
しかし、美味いものを食べているのだ。ならば、こういう時くらいこんな表情をしたって構わないはずだ。
そう自分に言い聞かせながら、私はパンのお代わりを待つのだった。
◇◇◇
結局お代わりしたパンも平らげたが、まだスープは残っていた。それでもパンをお代わりして食べきれる程胃の容量が無かったので、そのままスープを飲み干した。
「ご馳走様でした」
再度、両手を合わせ一礼。それを見たマスターは笑顔で私の空になったカップにコーヒーを注いでくれた。
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