そこは喫茶店だった。どこか高級そうな雰囲気を放っているが、カウンターの向こうにいるマスターは普通の人間に見える。
とにかく、私はどうすればいいか――すぐに考えたのは敵の罠だった。おおよそ幻覚魔法でも使っているのだろう。
「……どうされましたか? お好きな席へどうぞ。大丈夫です、ここはあなたが思っているような危険な場所ではありません」
ほう……。このマスター、心を読んだな?
どうやらただの人間ではないようだ――そう思って私はそれに乗った。そして、私はカウンターの席、正確に言えばマスターの前に座った。
「メニューは無いのか?」
そう言ったところ、マスターが陳謝した。
「ここは、メニューは無いんですよ。代わりに、あなたが一番食べたいものを提供することが出来ます。それが唯一のメニューとも言えますね」
食べたいメニューが?
いったい何を言っているのかさっぱり解らないが――とにかく待つしかない。どうやらこの部屋には優しい雰囲気があふれているように見える。ここに入ったばかりの時には気づかなかったが、どうやら結界のようなものを張っているらしい。
「少々お待ちください。たぶん、直ぐにやってくると思いますから」
そう言ってマスターはカウンターの裏にある――厨房へと顔を向けた。
◇◇◇
少しして、確かにそのマスターの言ったとおりに料理は運ばれてきた。しかも運んできたのは、赤髪のメイド――肌にドラゴンの皮膚のようなものがあるから、おそらくドラゴンメイドになるのだろうか――だった。
「お待たせしました、料理になります」
コトリ、とカウンターに置いた料理から湯気が立ち込めていた。僅かの時間でこれほど暖かい料理を作ることが出来るのだろうか? 答えは否、だろう。少なくとも、私が知っている技術ではこのような時間で作ることは不可能だ。
ならば、どうやって作っているのか? そんなことを考えてしまうが――少ししてそれは野暮だと結論付けた私は、両手を顔の前に合わせた。
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